「分かりましたから、頭を上げてください」

私がそう言うと、お父様は『そうか、分かってくれたか?』と言わんばかりの表情で顔を上げた。

「ちょうど私は田舎に戻るところでした。そうなれば息子さんに会う事はありませんし、連絡を取り合うつもりもありません」

「そうでしたか。それはいつのご予定で…?」

「今週末にと思っています」

「そうなんですか。それならわざわざこんな話はする必要はなかったですね? いや、私とした事が、お恥ずかしい。親というものは、子供の事となると周りが見えなくなると言うか…」

そう言ってお父様はガハハと笑った。

私はお父様の気持ちは分かったつもりでいたけど、その笑い声が、私を嘲笑うように聞こえた。

その悔しさと、惨めさで涙が出た私は、お父様に泣き顔を見られないよう、俯いたまま『失礼します』と言って席を立ち、喫茶店を飛び出していた。

背後で私を呼ぶお父様の声が、聞こえた気がするけれど…