「あ、蒼くん。楽譜ありがとう」

「これは、結花ちゃんのだろ?」

「うん。やっぱり忙しくなりそうだから……。
 ごめんね、それから、ありがとう」

「待って!!」

蒼くんの言葉に振り替えることなく、走り出した。

これ以上話をしていたら、あたしは、また甘えてしまう。

目頭が熱くなりかけたから、必死に歯を喰い縛って今来た道をを戻った。

これで良いんだよね?

そしたら、お荷物を背負わないで曲一筋に練習出来るよね?

ごめんね。

傍にはいられなくなったけど、心の中で応援することには変わりないから。

「早い帰りだったな。
 まさか、本当に戻ってくるとはな。
 大した奴だぜ」

「アンタは音楽界のNo.1に見初められたんだ。
幸せだろ」

「No.1?」

「知らねぇの?
 俺らのこと」

知らないよ。
どの音楽雑誌にだって乗っているの見たことないし。

「でも、聞いたことはあるよな?
“Black Anjel”の名を」

ブラックエンジェル

名前を聞いただけで背筋が凍りつく思いがした。