どのくらい走ったのか、足跡も聞こえなくなった今、漸く腕を自由にしてくれた。

 そこで、初めて彼の顔を見たのかもしれない。

 髪は赤毛でツンツン逆立って、男の人にしては小さくて、目がまん丸。
 かっこいいというより、可愛いが似合うかな。

 まるで、林檎みたい。

「悪かった。
 走り回しちまって」

 そうよ。
 バスに乗り損ねたじゃないのよ!!

 でも、奴らから遠ざけてくれて

「ありがとう」

「ところで、何で追われてたんだ?」

「貴方はどうして、見ず知らずの私を連れ出したのですか?」

 質問を無視して、逆にあたしから質問を投げ掛けた。

 完全に今、目の前の人を信じているわけではない。

 だって、送り込まれたスパイかもしれないしね。


「言ったろ。
 君を助けたいって」

 確かに聞いたけど、納得いかないよ。

「俺はちゃんと答えたよ。
 次は君が答える番だな」

 お日様みたいに笑うこの人を見ていたら、あたしの心も少しずつ溶けてきた。