瑞希も、あたしになんて構わなきゃいいのに。

 あたしには、ミズキという心の王子様がいる。

 そして、貴方を美夏が想っているだから。

 朝の一件が嘘のように瑞希は、あたしの周りを付き纏わなかった。

 嵐が過ぎ、平穏な一日も無事終わった。

 しかし、神様は意地悪のようです。


「桜──」
「日野さん、帰ろ」

「あ、うん」

 美夏と瑞希の、あたしを呼ぶ声が重なった。

 帰る約束なんてしないけど、美夏はいつものことだからいつものように来ただけ。

 だけど、どうして瑞希がこの場にいるの?


「市川くんの家って何処?」

「秘密」

 な、何?
 いつの間に二人は、仲睦まじい関係になったのよ。

 楽し気にアイコンタクト、なんて 交わしちゃって。


「折角だし、三人で、帰ろっか」

 あたし、今、旨く笑っているかな?

 頬の筋肉が強張った感じもあるんだけど。

 瑞希を真ん中に挟んであたし達は学校を後にした。

 なんか、変な感じ。

 美夏の、フルーテイな香りがしない。代わりに感じるのは、ほんのり甘いのに女性が持つフルーツ系やお花系とは違う。

 けど、なんだろう。この香り、知ってる。

 あ、そうか。
 朝タップリ嗅いだんだ。

 それにしては、朝とは違って懐かしい感じがするのは、何故?