『彩香、落ち着いて聞いて欲しい』

「うん」

 聞きたくない。

 当たってほしくない第6感が働いた。

 一瞬、耳を塞ぎかけたあたしに、ジュンは静かに、力強く、口を開いた。


『よく、聞いて。
 俺、転勤が決まっちまった。
 未だ、内示なんだけど昨日言われて、略確定なんだ』

「そう。
 ……いつ?」

『決まれば、来週』

「じゃ、明後日は会えるよね?」

『それが、無理っぽいんだ──』

 転勤を確定するかどうか、の会議が日曜日に開かれるって。

 これは、ジュンの業績が優れているから、見込んでくれた栄転。

 喜ばしい事なんだけど、あたしには祝福してあげられない。

 今のあたしにはそんな余裕なんてない。


『出発する前に時間作ってみるよ』

「うん」

 気休めにも感じられない。

 正直な気持ちに気付いて、会う決心もしたのに。

 一日だって、あたし達は会う事を許されないの?

 悲しくて

 だけど、どうする事も出来なくて、

 携帯が繋がったまま、声を大にして泣いた。