プライド

一輪の赤いバラが汚れた歩道の真ん中に無造作に落ちていた。

それはとても不思議な光景だった。
 
何故こんなところにバラが落ちているのだろうとサイモンは立ち止まり考えた。

誰かが落としたのか、それともわざとここに置いたのか。

しかし、いつまで考えてもその理由は分かるはずがなかった。

ただ一つ言えることは、たとえ汚れた歩道に落ちていてもバラはバラだということだ。

野原に綺麗に咲き乱れているバラや、花屋に並べられているバラと同じように、今自分の足元に落ちているこのバラも、バラの持つプライドや気品、美しさや気高さなど微塵も失われていなかった。

その証拠に誰一人このバラを踏み潰していった人間はいなかった。

いつからこのバラがここに落ちていたのかは分からないが、深夜でも1時間に少なくとも何十人という人間が行き来するこの歩道でも、バラはバラとしての輝きを放ち続けていたのだ。
 
サイモンはこのバラに感動を覚えた。

同時に所属チームに捨てられ落ち込んでいる今の自分を比べ、気恥ずかしさを感じた。

何を俺は迷っているのだろう。

たとえどんな環境にいても、どんな状況に陥っても俺は俺なんだ。

自分自身にプライドを持たなければならないんだ。

それをこのバラに教えられた気がした。

俺はサッカーが好きか?

YES。

もっと続けたいか?

答えはもちろんYESだった。
 

サイモンはバラを拾い上げると部屋に持ち帰った。

彼の部屋には花瓶なんかなかったので、ビールのパイント・グラスを代わりにしてバラを挿した。

殺風景だった部屋が、女性が口紅を塗ったように少し華やいで見えた。