プライド

その後サイモンはリハビリを懸命に続けた結果、見事翌シーズンにピッチに戻って来た。

実に怪我をしてから1年3ヶ月ぶりのことだった。

奇跡の復活と言っていいだろう。

舞台は怪我したときと同じホーム、ホワイト・ハート・レーン。

相手は赤い悪魔、王者マンチェスター・ユナイテッドだった。

プレミアシップがスタートして以降、常に優勝争いの中心に位置し、昨シーズンも圧倒的な強さで優勝し、今シーズンもここまで2位に大差をつけ首位に立っていた。
 
サイモンは1点をリードされた後半30分過ぎに投入された。

サイモンの名前がアナウンスされると、スタンドから温かい拍手が沸き起こった。

スタンドにいた僕はサイモンの姿をピッチに見つけると、全身から熱いものが込み上げた。

残念ながらサイモンはほとんどボールに触れることなく、相手には追加点を奪われ結局2対0で試合は敗れてしまったが、そんなことはどうでもいいくらい感激した試合だった。

もちろん僕とサイモンは何人かのチーム・メイトと共にその夜飲み明かした。

これほどの幸せを感じた夜はなかった。



しかし、いつまでも感激に浸っていられるほどプロの世界は甘いものではなかった。

見事復活を果したものの、サイモンのパフォーマンスは残念ながら明らかに落ちていた。

最初の何試合かは後半途中から出場していたが、次第に出番は減っていきベンチにすら入れない日が続いた。


「そんなに簡単にいかないことは分かっていたさ。いつ呼ばれてもいいように準備している。大丈夫、俺はまだ限界じゃない。パフォーマンスだってもっと上げられるさ」
 

サイモンは電話で僕にそう言っていた。

僕も彼の言葉を信じ、そして祈っていた。



しかしサイモンが再びピッチに戻ることはなかった。