通勤電車は甘く切ない時間

彼女に、声をかけられたことに驚いて、何も言えない俺。ただ、彼女の顔をマジマジと見つめる。


「…あのぉ…違いましたか?」

そんな俺に、彼女は困惑しながら、もう一度声をかける。


「……あっ!あぁ…はい…」

彼女の手から、キーケースを受けとると、


彼女が「あっ!危ない!!」

その声と同時に、エスカレーターは上りきって、


俺は、後ろにつんのめった。見事に、ひっくり返ってしまった…

それでも、まだ俺は彼女から目を放せなかった。

そんな俺に、彼女は
「大丈夫ですか?」
って、手を差し伸べてくれた。

俺は、ためらいながらも
「す、す、すみません…」
言いながら、彼女の手を取った。


その瞬間、無性に彼女を抱きしめたくなった。
そのまま、彼女の手を引いて、俺の胸の中に抱きしめたい衝動にかられた。


俺は、自分の気持ちに気付いてしまった…


俺は、彼女が好きなんだ。
ただ、眺めてただけの彼女が好きなんだ…