「さっきのが私のお母さん。仕事が忙しくてあまり家にいつかないの。ま、父親もなんだけどね。お茶でも出すよ。あがって」


「俺は部屋に戻るから」


 依田先輩はそれだけを言い残すと、階段の脇にある廊下を歩いていく。


 私は愛理に誘われ、靴を脱ぐ。そのすぐ傍にあるリビングの中に入った。彼女達の家のリビングは広々とし、物があまりなくモデルルームを連想させた。


「あまり物がないでしょう。食事のときにしか基本的に使わないからね」


「いつも二人で暮らしているの?」


「そんな感じだね」


「でも、毎朝お弁当は作ってくれているんだよね」


「あれは私が作っているの。お弁当を買うと高いし、健康のことを考えるとね」


「大変じゃない?」

「そんなことないよ。お兄ちゃんもおいしいといつも言ってくれるから」


 そう口にした愛理は目を小さな声を漏らした。彼女は顔を赤く染め、頬を膨らませ私を見る。