「気を遣ってくれてありがとう」


 再び彼は私との距離をつめ、手を差し出す。


 綺麗だった先輩がこんな顔をして笑うのかということに、戸惑い、そしていつになく心がほぐれていった。さっきまでの暗い気持ちもあふれてくる涙も一瞬で拭い去られた気がした。


 比較的広い家が並ぶ場所にひときわ大きい、立派な門構えの家がある。そこの表札には依田と書かれていたのだ。私の家とそこまで離れていないのにもかかわらず、家の敷地は二倍くらいある。


「先輩の家って四人家族ですよね」


「そうだよ」


 彼は笑顔で家の門をあけ、私を出迎えた。


 私は辺りを見渡しながら、家の中に入っていくことにした。


 玄関を開けると、玄関先に栗色の髪の毛をした背丈の高い女性が立っていたのだ。


 私の前を歩いていた依田先輩の足が止まる。