ティー・カップ

「実は今日エマに偶然会ったんだ」


「それで?」
 
ポールはグラスを拭きながら訊ねた。


「別に・・・それだけだよ」

僕は肩をすくめそう答えた。


「まだ未練があるのかい?」


「うん・・・」と言ってから僕は少し考えた。「エマと別れてまだ間もないし、ずっと彼女のことが頭から離れなかったんだ。何故こんなことになったんだろう、もう一度やり直せないだろうかって。でも実際、今日彼女に会ってみて自分の気持ちがよく分からなくなったんだ」


「というと?」


「彼女の顔を見ても心がときめかなかったんだ」と僕は言った。「何か彼女の顔が以前とは違って見えたんだ。彼女と付き合っていた頃は彼女の顔を毎日見るたびに綺麗だと思っていた。いや、実際綺麗だったんだよ。それが今日会った彼女にはそこまでの思いを感じることはできなかった。それって僕の見方が変わったってことなのかな?」
 

ポールは注文しに来た男性にギネスを注いだパイント・グラスを渡し、代金を受け取ると僕の問いに答えてくれた。


「簡単なことさ」とポールは言った。「もうお前の役目は終わったってことさ。女はいつだって愛する男の前で一番綺麗でいるものさ。俺の女房のアリソンがいい例さ。あいつとはもう出会ってから三十年以上になるけど、いつだって俺の前で最高の笑顔をしていて、最高に綺麗でいる。早く次の恋人を探すことだな」