ティー・カップ

ポールの話を聞いてなるほど、と思った。

確かに今日会ったエマは僕に対して、ただの知り合いに会ったという程度の表情しかしていなかった。

笑顔すらなかった。

きっと新しい男の前では最高の笑顔をしていて最高に綺麗でいるのだろう。

以前の僕の前でそうであったように。


ポールと話をして吹っ切れた気がした。

部屋に戻ると僕は最後にもう1杯だけあのティー・カップに紅茶を注ぎ、エマの顔を思い出しながらゆっくりと飲んだ。

出会ってから今日会うまでのエマの顔を鮮明に思い浮かべた。

最後の一口を飲み終えてもエマの顔は僕の脳裏に残ったままだった。

僕はぎゅっと両目をつぶり再び開けた。

エマの顔は消えていた。

その瞬間エマのことが僕の中で思い出に変わった。

僕に見えていたのは未来だった。



僕はいつもよりも念入りにティー・カップを洗った。

おそらくこのティー・カップが使われることはもう二度とないだろう。