「―?」


 どこからか、私の名前が呼ばれた。声色から、母であるのは想像できる。母の様子は普通ではなく、慌てて廊下を走る音も聞こえた。カーテンがある窓は開け放たれていて、全開だった。心地よい風がそこには吹いているのだろう。

 私が実感できないのは、私がそこにいないから。どこを探しても、今は見つからないだろう。

 悲痛な叫びが入った。扉の隙間からダイニングにある電話の受話器を片手に持っている母の姿が映る。


「なんで、来たんだよ……?」


 背後にある彼の声。

 私は今、世界から隔たれた鏡の中にいる―