近くに停めてあった車で、修は千鶴の家まで送ってきた。


 もうこの車に乗ることもない。

 この車と同じ色をした同じ車を見掛ける度に、しばらくは胸が痛む予感が千鶴はしていた。


 ならば。

「ねぇ、修」


 降り際に、修の方を振り返らないまま、千鶴はぽつりと言葉を口にした。


「この長靴、どうかな?」


 え? と一瞬聞き返すような間があった後、修は言った。


「うん、可愛いと思うよ」


「……ありがとう。じゃあ……ばいばい」


 最後まで修を見ることのないまま、車は走り去っていった。


 千鶴は背中で車が遠ざかるのを聞きながら、玄関に向かう。


 勢いよく長靴をぬぐと、泥を落とさぬまま、ビニールを掛けたダストボックスに突っ込んだ。


 一緒に選んだマグカップ、二人で笑っている写真、思い付く限りのものを手当たり次第に入れていく。


 そして蓋を閉め、瞳を閉じ、

「ばいばい」

と呟いた。






【了】