5月12日。

俺はこの日を忘れられない。

凛の苦しみ、恐怖、怒りを見た日だったかた・・・。

その日の凛は調子がよく、まるで元気だった頃の凛のように、
開口障害が少なく、あの頃のように話していた。

二人で院内を散歩していると、廊下で、
20歳くらいの年代の女の子を見かけた。
どうやら、お爺さんのお見舞いに来ていたらしい。

その女の子とお爺さんが楽しそうに廊下を歩いていると、
女の子が持っていたハンカチを落とした。

丁度、凛の真後ろに落ちて凛が拾って彼女に渡した。

「ありがとう。」
同じくらいの年の凛をみて、そうお礼を言った。

その女の子は煌びやかなスカートをはいていた。
着ている服やカバン、化粧、まるでいまどきの若者だった。

そして楽しそうにまた、お爺さんのところへ戻って行った。

凛はその姿を何も言わずに見つめていた。


病室に帰るとさらに口数が少なくなった。

そんな凛に俺は話しかけた。

「凛、どうした?」


「・・・。」


「凛?」


少しうつむき、そして話始めた。



「どうして私なのかな?」

「えっ?」

「なんで、あの子じゃなくて私なの?」

急に怒鳴り口調になり、声が大きくなった。