「私が小さい頃、母に教えてもらったんです。
歌手の魅力は音楽の魔法を知れたことだって。

音楽はどんな人でもたちまち笑顔にする。
心を温かくするんだって。

私、今、とても心が温かい。

これは羽流さんに音楽の魔法をかけてもらったから。
そう思うんです。」

「じゃあ俺もだな。」

「えっ?」

「俺も今、心が温かい・・・。
俺のこの心の温かさは凛からもらったものだからね。」


そう言って二人で笑った。




「この曲が完成したお祝いにどっか連れてくよ。」

「えっ?」

「この一週間以上まともに家から出てないだろ。」

「でも・・・。」
彼女は遠慮がちに黙った。

「どこか、行きたい所ある?」

「・・・。」

「えっ?」

小さい声で彼女が何か呟いたのだが、
あまりに小さい声だったので俺は聞き取れなかった。

すると、
「海がみたいです。」
少し恥ずかしげに彼女がそう答えた。

「了解。」
俺は勢いよく承諾した。



凛は産まれてこのかた海を見たことがないらしい。


 さっそく明日海へ行くことを決めたのだが、
夕飯時も落ち着かない様子でとても楽しみにしている事が窺えた。



俺はその姿が堪らなく可愛く、愛おしく思えた。