「……めんどくせぇのが出てきたな」


俊平の家を出た俺は夜道を歩きながらポツリと呟いた。



川上はこの辺りでは有名な悪だった。


高校入学と同時に担任の教師を殴り、少年院に入ったと風の噂で聞いたことがある。


その為、川上の両親はこの地にいられなくなり遠方に越した。


出所したら川上もどこか遠くの町に越すと思っていたのに、未だにこの町で好き勝手しているようだ。



それにしても、川上が俺を覚えていたのには驚いた。


中学の時、川上の前歯を折った俊平のツレとして俺は覚えられていたんだろう。


それなのに、今日の川上は俺に対して敵意丸出しだった。


「前歯を折ったのは俊平だ!俺じゃない!」


そう言っておけばよかったかも。


ま、いいか。どうせもう会うこともないし。


あいつのことも「知らない」と言っておいたし。


あんな歯抜けバカのことを考えるのは止めよう。


俊平にも川上のことを伝えられたし、俺の役目は終わった。



ヤニ切れになりポケットに手を突っ込んだ瞬間、


「……誰か!助けてください!!」


そんな悲鳴にも似た男の声が耳に届いた。