フッてくれて有り難う【季節短編】





突然、声がした。


待って待って、待ち続けた声が。


いつも聞いてて、いつも自然に耳に入ってくる、ただ静かで低い音。


振り返るとあいつは私の後ろにいて、雨はもうだいぶ降ってた。


あっ、と声を出しそうになったけれど、必死で飲み込んで、安全な屋根の下を出て雨にあたる。


あいつも濡れてて、傘一つ持ってやしない。


無造作に頭にタオルを乗せながら私の前に立っていた。


「部活、終わるの早くない?」


振り絞るように出したのは、そんな言葉。


「ああ、だって雨だからさ」


あっ…そっか。


もう帰らなきゃいけないんだね。


でもあいつの周りにはいつも人がいるのに今日はいない。