しかし、答えはいとも簡単に返ってきた。

「多分、惹かれてるんだろうね」

鉛筆を持つ手は止めずに、さらりと答える。

「どう考えても、ね。一日の中で、彼女の事を考えてる時間が日に日に増えてるみたいだ」

そんな彼に、紗耶香は少しひっかかりを覚える。


泰斗は陽菜に惹かれているのだ。
彼女が知りたいから話しをするのだ。
しかし何故だろう。
泰斗はその気持ちを陽菜にアピールしようとするそぶりは毛ほども見せない。


「伝える気は…ないの?」

その言葉に、動き続けていた右手が一瞬、止まる。
しかしすぐに滑らかに動き出した。

「彼女は今の現状で精一杯だよ。僕は彼女の今を掻き回したいわけじゃないからね」
「でもそれじゃあ泰斗君の気持ちは…っ?」

そこまで言った紗耶香を見て苦笑する。
「まいったな」とでも言うような、いつもの優しい苦笑。

「使命感で固まっちゃってるみたいに見えるんだ。何かに急かされてるみたいに」

そう言って泰斗は陽菜を見る。
彼女は仲間に呆れながらも相手をしている。

「きっと優しい人なんだよ。僕は僕に出来ることをしたいんだ」


彼女の世界で、
自分の存在は割り込んではいけない。
だから、
遠くからずっと見守る。