ボディーガード

「久しぶりね、元気?」


「ああ、元気だよ」
 
僕は精一杯の強がりで答えた。

あんなにもう一度話がしたいと思っていたナタリーと今こうして話しているのに、心はひどく泣いていた。
 
しかしそんな僕の気持ちに気付く様子もなくナタリーは話を続けた。


「仕事はどう?順調?」


「うん、まあ何とかね」
 
大嘘だ。

ナタリーと別れてからは家に閉じこもりがちでろくに仕事なんかしていない。


「そう、よかったわ。私のほうはもう最近いらいら続きでミスばかりよ。まるで数の足りないジグソー・パズルを組み立てているようなものね。もう辞めてしまおうかしら」


「何言ってるんだよ、頑張らないと駄目だよ」
 
一体僕は誰を励ましているのだろう。


「でもマーク、あなただって仕事を辞めたいと思ったのは一度や二度じゃないでしょ?」


「もちろん何度もあるさ。でもそのたびに辞めていたらキリがないだろ」


「そうよね、それに仮に今の仕事を辞めても、次に就く仕事が今よりいいなんて保障どこにもないしね。いいわ、今度いらいらが募ったらいつも嫌みったらしい上司の脛を思い切り蹴り上げてやるわ」

ナタリーはいたずらっぽくそう言ったが彼女なら本当にやりかねない。

事実、僕も一度だけナタリーに膝のあたりを蹴られたことがある。