幾千の時を超えて

そんなことを考えてる間に車は大きな門の前で止まった。

表札には「茅野」の文字。

左右を見ると曲がり角まで塀が続いている。

どうやらこの１区画が彼らの住まいらしい。

門の奥には広大な庭とその奥に白い壁の邸宅が広がっていた。

亮さんがリモコンのようなものを操作すると、自動的に門が開いていく。

上を見ると、塀の上部分にセキュリティー用と思われるカメラが数台。



「驚いた？　ここが沙耶ちゃんの新しいお家よ」

まあ、驚いたと言えば驚いたか。思っていたよりも大きな家だったから。

だが、この程度でしり込みするような、かよわい神経は持ち合わせていない。

城に住んでいた経験のある私にとってはかわいいものだ。



車はスムーズに門の中へと入っていく。

丁寧に整えられた庭先を横目に、両開きの玄関の前のロータリーに静かに止まった。

と同時に、玄関の扉が開かれ、中から家政婦や執事と思われる人々が出てきて一斉に頭を下げた。

……このご時世に家政婦はまだしも、執事までいるとは。


「さあ、沙耶ちゃん、降りて。うちの人たちに紹介するわね。
　荷物は運んでくれるから大丈夫よ」

執事が開けてくれたドアを通って、地面に降り立つ。

ざっと見る限り２階建てか。

だが横に広い建物なだけに部屋数は相当あるだろう。

手伝いの人の部屋を考慮しても無駄に広いような気がする。

まあ、ホームパーティーやら客人を招くのなら妥当か？

……面倒な催し物に駆り出されなければよいが。


思わずつきそうになった溜息を引っ込めて、２人の後に続く。

広い玄関ホールでスリッパに履き替え屋内へと入った。

見渡すと、無駄に華やかになりがちな豪邸の所々に小さな花が飾ってある。

それは女主人たる吉乃さんの小さな心意気だろう。

ほんの小さな心遣いで、どこか家庭的な雰囲気を醸し出していた。

思っていたより過ごしやすそうでなによりだ。

豪華なだけの邸宅には飽き飽きしている。