「こんなにキスしたら先生の唇腫れちゃうかも」


気付いたらそんな冗談を言う彼の笑顔が目の前にあって
あたしは瞬間的に頬を染めた


「…もぉ。」



この後。
あたしがどんなに聞いても
やっぱり彼はあの日怒っていた理由を絶対に言わなかった

もう仲直りできたんだからいいいじゃん、なんて軽くかわしながら
駄々をこねるあたしの頭を
そっと優しく撫でる彼。

それに答えるように
あたしは彼の頬に手を当てる


指先に彼の吐息を感じて
何だか全身に鳥肌が立った


どうしてこんなにも愛おしく感じるのか
自分でも分からない


「好き、寛人」
それが。

それだけが理由だった


「俺も」



比べ合うように
急ぎ足で気持ちを伝え続けるあたしたちは
まるで何かに追われているみたいで

だけどこの時のあたしたちには適度な速度だった