ネズミなのだから謝罪など出来るわけもない。
それにネズミにとっても天井から落ちたのは驚きの出来事だったはずだ。
そんなことは綾羽にも分かっている。
分かってはいるが、あそこまで自分を驚かしたネズミは万死に値するとも思う。
なにも、顔の上に落ちてくることはなかったのだ。
布団の上に落ちて来ても・・・・まぁ、やっぱり驚いただろうが、ここまでではなかっただろう。
視界を塞がれ、獣臭が鼻の一杯に広がったうえに、よくよく思い出してみれば後ろ足が口の中に入ってきたような気もする。

・・・・もう最悪だ。

眠りを妨げられた上に心臓を止められかけて、ここで許せたら自分は神だとさえ思う。
が、残念ながら綾羽は神ではない。
ということで、冒頭に戻るわけで。

大混乱をきたした頭で、枕元に置いておいた愛刀(竹刀だが)の椿姫をとった綾羽はわき目も振らず、大罪を侵したネズミを追いかけていた。
親の仇でもとるかのような般若の形相で。
月明りだけを頼りに廊下を駆けながら椿姫を振る綾羽に、綾羽の本気の殺気に逃げ惑うネズミ。
恐ろしくシュールな光景だ。