ここは都心でも田舎でもない地に剣道道場を構える五十嵐家の中。
昔からある旧家で、馬鹿みたいに家は古臭くてでかい。
だから昔から、夜になると綾羽は家の中を通るのが怖くて怖くてしかたがなかった。
それは自分の家でありながら、あまりにも家が古くて何かが出そうだったからで17となった今でも、家が怖いのは変わらなかった。
夜、トイレに行くときは床が鳴るたびに悲鳴を上げたし、風で窓が揺れただけで目の中には涙が溜まりだす。
そんな、怖がりな綾羽が今なりふり構わず真夜中に平気な般若の顔で家の中を走り回っているのには大きな大きな訳がある。

「ヂュー!!」

「そこかぁぁぁぁぁああああ!!」

濁った可愛いとはとても言えない鳴き声に、ネズミを見失っていた綾羽は血走った眼を向けて椿姫を振った。
そう・・・・怒りの矛先は、この鼠。
両手に乗せると丸々と太った体と尻尾がびろんとはみ出すほどのサイズの、小さいとは少々いいづらいドブネズミ。
ネズミくらい、普段の綾羽だったら気にも留めない。
古くて大きな家だ。ネズミくらいいる。
だが夜中の、しかも爆睡と言っていいほどに熟睡していたところにこのドブネズミは突然ポトンと天井から顔面に落ちてきた。
瞬時に目を覚まして恐怖に身体を硬直させた綾羽の顔の上に降り立ったネズミは、しばらく綾羽の顔の上に滞在した後一言の謝罪もなく部屋から出て行った。

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