沙慧がいないとわかった僕は
家への道を振り返った


もう後戻りはできないのか
名残惜しくなってもう一度
滝を見た


すると
僕の横を黒い影が掠めた

「なっ!?」

あわてて後ろを振り返ると
後向きで冷たいナイフを
僕の首につき付けている
沙慧がいた

黒髪がかぜでさらさらと
空中で揺れていた

ナイフの切っ先は全く
ぶれない
少しでも力を入れたら
きっと僕は死ぬだろう

でも好きな人に殺されるなら
幸せだと僕は思った

だって自分の最期を
大好きな人が看取って
くれるんだから