折り返しの50mターン。
村山はまずまずのターンだろう。
最早前を行く他のコースとの比較はしまい。哀しくなるだけだ。
6位争いになっている3コースとの差は、ここで身体一つぐらいあるかな?
「ようがんばっとるやないか」
「そうだな。いいペースだ。このまま帰って来いよ」
先輩達の期待が聞こえるのか、単に3コースのペースが遅いのか、村山はそのまま6位を死守している。
75m近辺、まだ差は縮まらない。
村山の体力的には、ここら辺りから結構ペースが落ちる事が多い。
たかが100mされど100m。
どんなスポーツでも、練習と大会では緊張から体力の消耗具合が違う。
それでもある程度大会慣れしているならそうでもないんだが、村山の場合はあまり場慣れしていないからな。
「いや。浅野は慣れてるんちゃうやろ。図太いだけやん」
「井上先輩までそう言いますか!」
どんどん俺をいじめる輪が広がっているじゃないか。
村山が残り5mラインに差し掛かった。
そこで1コースと6コースはアンカーが飛び込んでいく。
3コースは、ここから見ると身体半分ぐらいの差か。
アンカーの兄北田がタッチを受け飛び込んでいく。
やや遅れて3コースも飛び込んでいった。
「どうだった?」
ばてばてながらも自力でプールサイドに上がってきた村山が聞いてきた。
「ん、まあノーコメントだ」
「ひどい! また見てなかったんだ!」
いやいや、さすがにそれは有り得ないだろ。
「一応見ていたが、取り立ててコメントすることも無いんでな」
「あるでしょ! 頑張ってた、とか、お疲れさん、とか」
「ああ、そういう言葉か。じゃあ好きなものを選べ。①お疲れさん、②お疲れさま、③お疲れ」
「語尾が違うだけだよ! もういいよ」
なんだ? 言えって言うから言ったのに。我が儘な奴だ。
