スタンドに上がり、県予選同様、上の方に陣地をとる。

 先程のバスで来た学校がほとんどなのであろう、入った時にはがらがらだったスタンドが、一気に人で溢れ返る。

「にしても。市立商業はまた前を独占してますね」

 隣に居た兄北田に話しかける。

「そうだな、市大会ぐらいは遠慮すればいいものを」

 強豪校の、良く言えばやる気とか意気込みとかになるんだが、悪く言えば専横とでも言うべきか。

「中学生達にとっては問題だよな」

 市大会は市の体育連盟が主催する為、市内の高校と中学の水泳部が参加する。

 中学生も陣地はこのスタンドに取るわけだから、市立商業が独占しているとなると、前の方には行き難いだろうに。

「ところで浅野の中学も強豪校だよな? 北中は」

 北中は強豪校、と言われていたし、実際に団体優勝は、まあ当たり前ではあった。

 兄北田の通っていた山王中は、水泳に関してはあまりぱっとしない。というか、水泳部があったのも知らないくらい。

「そりゃ、部員がぎりぎりの人数だったし。女子は無かったくらいだ」

 女子の居ない部活ってのも、想像するだけで嫌なものだ。

「あ、だから妹は野球部の?」

「まあそれもあるけど、やっぱり同じ部活は嫌なんじゃないか?」

 それを判っていながら、マネージャーに引き込むなんて。

「仕方ないだろ? こんなに部員が入ると思わなかったからな」

 部員確保と妹の心情と比べて、部をとったということか。

「後輩達もくるんだろ?」

 兄北田の向こうにいた朝倉先輩に尋ねられた。

「まあ出場停止になってなければ来てるでしょうけど」

 高野連じゃないんだし、余程の事が無い限り中学の水泳部が出場停止はありえない。

「浅野がいなくなったから、そんな心配は無いんじゃないか?」

 だから俺をオチに使うなって!