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 そもそも。

 人前に立つなんていうのは“整列のとき”くらいなもので。

 人見知りなわけじゃないけれど、各長ということは全員が先輩なわけで。

 そんな中、その人たちを納得させられる内容のものを発表しなきゃいけないんだもの。

 わたしじゃなくてもプレッシャーだ。

「でも、やりたいんでしょ? 天文部」

 とがめるわけでもなく、やさしく確認をするように問いかける八重さん。

「……はい」

「なら。がんばらなきゃね」

 なんてことない言葉。

 でも、なぜだかスッ、と胸の奥に染み入る言葉。

「そう、ですね。そうですよね。うん」

 望むことは決まっていて。

 すべきこともわかっていて。

 なら、進むことを迷うだけ時間の浪費。

 そうこうしてる内にも、空に浮かぶ星座の位置は日々変わっていくのだから。

「大丈夫。前はあった部なんだし。ね?」

「はい!」

 そうだよね。

 うん。

 案外すんなり通っちゃうかも。

 後ろ向きな前向きになるくらいなら、つまづくくらいに前向きになる方がずっといい。

 月例集会までは後1週間。

 出来ることを精一杯やろう。

「はい。じゃぁ、これ」

 そういって八重さんはショーケース内のキューブバウムと他のいくつかのケーキを箱に詰めて渡してくれた。

「え? あ、そんな」

「いいのいいの。その代わり──」

 戸惑うわたしに八重さんは向日葵のような微笑みとウィンクをひとつして、

「屋上から見える星の景色を、私に今度お話してね?」

 このケーキたちに見合う物語。

 ずいぶんと高い“お代”だけれど、臆病なわたしの足を奮い立たせるにはちょうどいい。

「はい!」

 頬の紅潮を感じながら、わたしは目一杯に元気な返事をするのだった。