大学での講義を終えた綾香は、陣内の会社を訪ねた。

「どちらのご用件でしょうか?」

受付嬢が綾香に聞いた。

「ここの会社の社長さんに書類を頼まれて、持ってきたんです」

もちろん、大ウソだ。

書類なんていっさいない。

「社長室なら、最上階にあります」

「ありがとう」

綾香は礼を言うと、エレベーターへ足を向かわせた。

エレベーターを待っていると、
「何だお前か」

その声に顔を向けると、眼鏡をかけたスーツ姿の男がいた。

「森藤さん」

この会社の外交員の森藤勇だ。