「俺に見せる態度が違い過ぎる…」

藤堂の後ろ姿が見えなくなると、陣内は呟くように言った。

「では、失礼します」

頭を下げて那智もその場から退散しようとしたら、
「ちょっと待て」

その声に、動きかけた足が止まった。

「名前くらい、名乗ってもいいんじゃないのか?」

そう言った陣内に、
「はっ?」

那智は思わず聞き返した。

「相手が名前を名乗れば、自分も名乗るのが世間一般の常識だ」

陣内が言った。

(そんなの知りませんけど!)

那智は口で言い返す代わりに、心の中で言い返した。

「もう会わない、ような気もしますけど」

そう言った那智に、
「覚えておくだけでも問題か?」

陣内が言い返した。