「この黒いのは……?」

真っ黒な塊を指差しすると、お爺さんは硝子テーブルの上の物を退けて、硝子のテーブルからそれを私の掌に落としてくれた。


「孔雀石です、光の角度で見たら黒じゃないのが分かりますよ。」

掌で何回も孔雀石を転がしてみた。
キラキラと、角度によって閃光が私の瞳へ何重にも刻まれる。


「綺麗……」

思わず、口に出していた。


「あげましょうか。」


「えっ……」

お爺さんを二度、見直しても、相変わらずニコニコしているだけだった。


「ご来店されたお客様へ、ささやかな感謝の気持ちです。受け取って下さい。」

お爺さんの皴の深い指が、私の拳の中に石を握らせてくれた。
石は触れていると私のもやもやした気持ちを吸い取ってくれているようだ。


「有難うございます!」

私の手の中に馴染んでゆく石と、お爺さんの穏やかな微笑みに私の失恋も大分整理されてきていた。


「冷めないうちにどうぞ。」

お爺さんに薦められるままにお茶を口にする。