手招きされた通りに上がらせてもらう。
知らない人について行ってはいけません、とはよく聞いていたけど、相手は老人だし何かあったらすぐ逃げればいい。

中は古びた臭いがする。
靴を揃えて端に寄せたが、この玄関口にシューズは似合わないみたい。

床はギイギイと鳴る。
へんてこりんな招き猫が入口に置かれていて、廊下にはびっちりと木箱や壺や硝子に入れられた人形がある。
こけしや日本人形には不気味でなるべく見ないようにした。


「すぐ、温かいお茶を煎れますね。」

私に大きなバスタオルを渡すとてきぱきとお爺さんはやかんに水を注いでいる。

大きな窓のカーテンはしっかり留められていて、こちらからは庭の手入れが行き届いた草花がよく見えた。

硝子の卓上にクッキーが置かれ、薦められる。
椅子はゆったりと深く座れる皮張りのもので、少しだけ、手を置くとこが亀裂があり、年期を感じさせられた。
硝子の卓上と椅子は洋風なのだが、平屋は和風で、不思議な和洋折衷の空間だ。

中の家具も箪笥やチェアーで余計に混乱させられた。


「砂糖とミルクは要りますか?」

お爺さんは優しい笑顔でこちらにピンクの花模様のカップを出してきた。
カップに触ると少し温かい。


「あ、大丈夫です。」

キョロキョロしていた自分が田舎者のようで、急に恥ずかしくなる。


「はい、では三分間蒸らしましょう。」

お爺さんはピンクの花柄のポットにお湯を注ぐと砂時計を逆さにしてポットにカバーをかけた。

珍妙奇天烈な調度品に囲まれながらも妙に落ち着く時間だ。


「そうだ、タオルありがとうございます。」

とりあえずお礼を忘れていた。


「いえいえ、お嬢さんはお客様ですからね。」


「お客……?」


「はい、ようこそ御影骨董店へ……です。」

難しい漢字が確かに玄関先にあった。
あれはそうか、コットウテンだったのか。


「これも、売り物ですか?」

硝子の卓上には小分けされていた綺麗な石が並んでいた。


「はい、今はパワーストーンというんですよね。触ってみますか?」

お爺さんは紳士的にティーカップを降ろした。