大粒の雨が私の頬を濡らす。
流れるのは雨水だけじゃない、ドロドロに書いていた眉も解けた。
眉だけじゃない、今まで培ってきた恋する心までも……私は嫌な女だ。
あんなに好きだった人を振られた途端に憎くなる、それは頭のどこかで好きを嫌いにしようとしているからだと思う。

走ってると楽だ、余計なこと考えないで済む。

だからといって、考え過ぎないのは禁物……。


「ここ……何処。」

口にしてももう遅い。
曇り空を仰ぎ見ると、いよいよ本降りになってきた。

商店が見えて、傘が買えるかもと一縷の願いを抱きながら急いで向かったけれどシャッターが降りていた。
四方形の屋根の無い家を一部だけ商店にしていて、仕方がないから隣の知らない家で屋根を借りて雨宿りさせてもらう。

向かいの家は平屋の良く言えばレトロ、胸に手をあててみたらボロい家だった。
人は住んでるのだろうか……まさか、お化けとか。

不安を掻き消すために向かいの平屋を覗いてみる。


「お客様ですか?」


「おぎゃああああ!」

真後ろからの声に叫んでしまった。
しかも、雄々しく。
振り向くと、傘をさしたお爺さんが居て、この人が私を雄々しくさせた張本人みたい。


「風邪を引いてしまいますよ?」

お爺さんは扉を開けて玄関口の招き猫の置物と同じように手招きしてくれる。

猫のお爺さんだ。