「あっつい……」


一面に広がるどこまでも続く緑の海が、目に映る。たくさんの山々があたしを見下ろしている。
セミの大合唱を聞きながら、電車を降りた。

あたしの住む都内とはまるで違う風景、空気に興奮する。
冒険心や探検心が、膨らむ。思わず口角があがった。





──夏恋。



あたしは今年の夏休みをつかって、一人旅に出ていた。
お母さんには最初ものすごく反対されていたけれど、最終的にはとうとうお母さんが折れた。
「お祖母ちゃんがいるからそっちに行けば?」
って言われたけど、それは断った。


とにかくあたしのことを知ってる人がいない、知らない土地に行きたかった。


別に家庭が嫌で逃げたとか、恋人が忘れられなくて旅に……とかではない。
なんでだろう、分からないけど一人で遠くへ行ってみたかった。

ってまぁ旅と言っても、あたしはまだ高校生だから日帰り旅行。
一応知らない、田舎の土地には来たけれど、都内からさほど離れていない。
言ってしまえばその距離があるからこそ、安心して興奮できるのかもしれないけど……どこか悔しい気がするから、それは心の奥底に沈めておこう。


「えーっと……こっちかな」

家で調べてきた場所へ向かう。プリントアウトしてきた地図を手に持ってキョロキョロする。ふと目をとめると、少し離れたところの木の木陰に、男の子が立っていた。こっちをじっと見ているような気がする。


(なんだろ?視線を感じるような気が……歳は同じくらいかな?)


あたしもしばらく見つめてみるが、動く気配はない。気のせいかなと思って地図に目を戻し、歩き出した。