顔を背けると、熱い吐息が耳元にかかった。

蓮の柔らかな髪が、頬にかかってくすぐったい。

「真央さん、分かってますか?」

ヒクッと肩が跳ねた。
こいつ…私が耳弱いの知ってて狙ってるんだ…。

悔しい気持ちとは裏腹に、耳に息がかかるたび、体はピクピク跳ねる。



チュ、とこめかみにキスが落とされる。







「僕だって、男ですよ?」






ドキン…
首筋に柔らかいものが何度も押し付けられる。
じっと上目遣いに見つめてきた蓮の瞳に、吸い込まれそうで…

ドキン…ドキン…


やだ……私、何か変だ。
なんだろう、でもおかしい。

恐怖とはこんなに、胸が苦しくなるものだったっけ?


ピチャン、ピチャンとTシャツから滴り落ちる水滴が、思考を余計に混乱させる。





「真央…」





不意に。
甘いテノールの声が、私の名前を囁く。
ありえない。本当に、ありえないよ。

「…ッ///」

こんなにドキドキさせるなんて、反則だ。
長い睫毛が目の前に見える。そして数センチ先には、今にも触れそうな、蓮の唇。
その淡い色をした唇に、触れたいと思ったのは、気のせいかな。


「真央…」
「れ…ッや、ぁ」


重なる唇。角度を変えて何度も啄むように唇が触れる。

嫌だ。やめて。
ううん、やめないで。
怖い。苦しい。
違う。違う。

恐怖なの?この感覚は何?

矛盾した思いが、沸き上がってくる。

考え事をしているうちに、リップ音を立てて、唇が離れた。
蓮が…寂しそうに私を見つめた。


「……嫌、ですか?」



ドキン…ドキン…

分かんない。よく分かんないよ…。


生理的に出てきた涙が、頬を伝う。


私、よく分かんない。分かんないけど、でも、今は…