そのとき


ガラガラ、と扉が開いた。






「真央!」

「真央ちゃん!」








聞き覚えのある声に、驚いた。






「父さん、小百合さん……」






「真央は!?」





今まで見たこともないような顔の小百合さんに圧倒される。


凄く、凄く、母の愛を感じた。







「今、急に苦しみ出して…」



「真央!真央!」




真央さんの頭を撫でながら必死に呼びかける小百合さん。


僕や紫さんの説明が耳に入っていないようだ。





こんな小百合さん、初めて見ました…。


いつもはニコニコと明るくて、冗談なんだか本気なんだか分からない人。

でもいつも冷静に物事を見て、判断する人。





だけどやはり、大事な大事な娘の一大事だから


冷静になんてなれないんでしょう。












……僕よりも、愛が深い。

親子ですからね。


でも何故かこんなときにまで、僕は小百合さんに嫉妬した。

真央さんの一大事だというのに、僕は、馬鹿ですね。





馬鹿だ。









こんなときにまで





あなたを手に入れたいと思ってしまう。










どこまで欲深いんでしょう。


真央さんの冷たい手を握り、自嘲した。















早く、目を覚ましてください。






でないと僕は、



どうにかなってしまいそうだから……。









笑顔でまた



僕を呼んで。



僕を見て。



僕に触って。






僕に笑いかけて。









でもあなたが目覚めたら僕は、





きっと、抱き締めてしまうから……






やはりあなたの





声が、聞きたい。





ねぇ、聞かせて?