「蛍という虫は」

私は口を開いた。


「幼き頃は川の水の中で貝を食べて育ちますが、羽のある姿となってより後は

何も食さず、
鳴くこともなく、
ただ光り続けて、

十日の後に死ぬのだそうです」


「儚い虫よな」


「だからこの光る虫は、声の限りに歌うことのできる蝉に憧れるのだと、ある娘は言いました。ですが──」


私の肩から魂が飛び立ち、夕闇の空に昇って行く。


「鳴く蝉とて、やはり十日もせずに死ぬ儚い命に変わりはないのに……」


さわさわと、河原に風が吹いた。

無数の魂たちが明滅を繰り返している。