何だかいやに機嫌の良い足取りで下りてきた彼女に、龍之介は難しい表情をつきる。


見たことがある…いや、よく覚えている彼女の顔。




「……井上」


「あら。龍之介」




龍之介の声に反応した彼女・井上春奈が、その色気を纏った高い声で龍之介の名前を呼ぶ。

やたら上機嫌に紡がれた自身の名前に、龍之介は邪険そうに顔を顰めた。




「名前で呼ぶの、やめろ」




──吐き気がする。


鋭い声まるでを体に突き刺すようにそう言った龍之介はまさに悪童。

優衣には見せることのない絶対零度の瞳は獣のよう。

向けられれば校内外問わず誰もが体を強張らせるようなもので。


勿論井上も例外ではなく、顔に緊張を窺わせる。