「…うー…井上さんに何か言われたん?」




呟くように健の口から出た名前。

その名前に優衣は小さく首を傾げる。


それは少し前にどこかで聞いたことがある気がする響き。




「あれ、違った?井上春奈。さっきここから出ていくの見たんだけど」




身に覚えが無いといった反応を示す優衣に今度は健が首を傾げる番だ。




(さっき、教室…?…あ…)




二人で首を傾げること数秒。


健の台詞を心の中で復唱した優衣の中に漸く人物像が完成した。



この教室から最後に出ていったのは彼女以外に有り得ない。



そしてどこかで聞いたことがあると思ったその名前は、前に友人たちの会話の中で出てきたもの。