キレイな朝だ。

オレは、自分の寝起きのいい日をそう例える。

この調子だと、バスの中で寝そうにない。

自分の体のペースは、自分がよく理解している。

「なーんでこんなに気持ちいいんだか」

オレは何かに期待している。
それは何かわかっていたが、意識せずにいた。

そんなしょうもない目的のため、自分が朝から準備しているのかと思えば、ちゃんちゃらおかしく思える。

「オレは変態か」

バス停でしばらくそんなことを考えていた。





いつもと同じ時刻に、バスが来た。

乗り込み、中を見渡す。



――いた。



タイヤで高くなった一人席。

そこに彼女は座り、本を眺めていた。



きっとこれが、日常になっているんだろう。
だからこそ、それに神々しさを感じる。

偶然から生まれた普通の光景にオレは酔っているのだ。



「おはよ」

オレが声をかけると、

「おはようございます」

リンは本から目をそらし、オレの方を見て答える。

そんな光景に安心するようになった。

そんな日常を嬉しく思うようになった。



高校に入学してから一ヶ月も経っていない。
オレはまだ、生活に慣れていなかったのだろう。

だが部活に入って三日目。
オレはきっと心から感じたのだろう。



これが、オレが心からこのままでいたい、と思える状況だと。