「なんかしゃべりたい」
それがオレの本音。
「一人でしゃべっていればいいじゃないですか」
……正論、か?
よし、一人でしゃべろう。
「ではここで日常に迫る危機を一つ」
リンは本に見入っている。
もちろん頷き一つない。
「DHMO――一酸化二水素という物質があります。ご存知ですか?」
疑問文だったが、無視される。
「DHMOは無色、無臭、無味ですが毎年多くの人を死に至らしめています。
ほとんどの死亡例はDHMOを偶然吸い込んだことによるものなのですが、危険はそれだけではありません!」
無視。
「企業は使用済みのDHMOを大量に河川に投棄していますが違法とはされていません。
……そのことを一人の政治家が指摘しましたが、簡単にあしらわれてしまいました」
……無視される。
「……誰か止めてくれよ」
リンがダメなら運転手……って今運転中だ。
話しかけるのはよくない。
……はあ。
「続きは?」
リンが顔を上げ、こちらを見ている。
「続きはないんですか?」
「あるけど……さっきまで聞いてなかったよな」
「半分聞いてました」
それは内容が半分のようにも聞こえる。
そうじゃないことを信じるが。
「聞くか?」
「そんなに」
じゃあ言うなよ。
「でも」
?
「いいところで切らないでください」



