バスは出発した。

オレたちはバスに揺られながら、あまりにもへたくそなカラオケを聞きながら、目的地へと向かっていた。





「……で、なんで歴史博物館なんだよ!」

オレはやたらと敷地の広い建物の前で叫んでいた。

「……ナオキ、しおりはちゃんと読んだほうがいいよ」

藤沢があきれたような目でオレを見る。

やめろ、そんな目でオレを見るな。

「なんですぐに宿泊施設に向かわないんだよ」

「それだと早く着きすぎるんじゃないかな」

だったら出発を遅くすればいい。

こんな暇つぶしにもならなそうな場所、お断りだ。



「お琴割り、だッ!」



「どうする?自由行動でみんな先に行っちゃったけど」

一週間近く振りに言ったのにスルーするな。

……ここなんか、回るだけでメンドクサイ。

「藤沢、オレはここに残る」

「ダメだよ!ナオキ一人置いていくなんて僕には出来ないよっ!!」

「それでもだ!」

空のこぶしを強く握り締める。

「……それでも、置いていけ……」

声が震えるのをこらえる。

藤沢の顔を直視する事なんてできなかった。

「……わかった」

藤沢が、了承する。

「必ず!必ず迎えに来るから!」

そう言って、藤沢は一人、駆け出していった。

振り返ることもなく。

……それでいい。

それで。



「……お前もさっさと行け」

「クラス担任、いい雰囲気なんだから邪魔しないでくれよ」