岸君って、優しい。



 今まで、あたしの側にいてくれた男性(ひと)は。

 父さんや、兄貴にしても。

 あの、莫迦直斗でさえ。

 族やらなにやらで、世間一般の善良な人々を『カタギ』って呼んでいる人たちだったから。

 優しいのは確かでも。

 ココロの奥には、まるで刃のように。

 冷たく、尖った強さを持つ、芯があるように感じるところがあった。

 だけども。

 岸君には、それがない。

 お弁当を食べている間中、あたしの隣でにこにこと笑ってた。

 そりゃ、言葉使いは、変だけど。

 岸君は、弱いのでも、軟弱なヤツでもない。

 きっと、その溢れんばかりの、優しさが。

 もしかしたら、悪いヤツらに、目立ってしまうんじゃないかな、って思った。



 これから、頑張らなくっちゃ、って。


 コトの当人じゃないのに、あたしは、こっそり、ゲンコツを握る。
 
 放課後。

 クラスメートと会う公園の場所から、少し離れた所で。

 岸君との待ち合わせのブランコに座りながら。