俺様先生と秘密の授業【完全版】

「カッキー……!」

 伊井田さんの、声が追いかける……だけど、あたしは、もう振りかえらなかった。

「愛莉さん!」

 吉住さんの声が、近づいた。

 それから黙って、あたしの後ろへ続いて、歩く。

「愛莉ーー!!」

 大好きな……大好きな、直斗の声が響いた。

 けれども。

 その場で、座り込んで泣き出しそうになるのを我慢して。

 吉住さんに、支えてもらって、それでも、あたしは止まらなかった。


 丸一年と少し、通っただけの学校だった。

 でも。

 あたしが、とっても欲しかった『友達』と。

 生まれて初めての『彼氏』の出来た学校だった。

 とても、とても好きな人がいる、学校だった……



 いろんな思いを込めて、あたしは、この高校の校門を出る。



 ……

 ……直前だった。

 今までとは別の声が、あたしの袖を、引いた。

「二年A組の加月 愛莉さん、ですね……?」
 
 その声さえも、無視して出ようとしたあたしの隣で、吉住さんが、小さくつぶやいた。

「……校長」

 その、普段はめったに逢わない、学校で一番上の先生が、いる、と言う。

 思わず、足を止めたあたしのすぐ横に。

 白い髭がトレードマークの、かなり年取ったヒトが、いた。