俺様先生と秘密の授業【完全版】

 伊井田さんの。

 そして、みんなの心遣いが、ただ、ただ、嬉しかった。

 本当に怖かったし、結局あんまり役に立たなかったけれど。

 あの時、自分が『水野小路』だって、名乗り出て良かった、と思った。

 ……でも、だからこそ。

 梢城高の皆が大事だと思えば、思うほど。

 あたしは、ここに居ちゃいけないヒトだった。

 百戦錬磨のオトナ同士。

 意地とプライドを賭けてしのぎを削ってる……戦っている裏世界から『敵』は来るんだ。

 どんなに頑張っても、まだオトナへの階段を上っている途中の生徒だけの……

 ……子供だけの力で、なんとかなるわけは、無く……

 あたしは、流れっぱなしの涙をぐぃ、と手の甲で拭いて、深く、深く頭を下げた。

「みんな、ありがとう。
 ……でも、ごめんなさい……!」

 言いたいことは、沢山あった。

 けれども。

 胸が詰まって、結局、あたし、これだけしか、言えなかった。

 これで家に帰ったら、もう二度と梢城高校には、戻れない……戻らない。

 本当は、すごくイヤだったけれど、自分で、決めたことだから。

 あたしは、皆にきっぱりと背を向けて、校門へ歩き出した。