俺様先生と秘密の授業【完全版】

 あたしたちが帰り際、岸君が確かに寝ていたベッドは。

 布団どころか、マットレスまで、キレイにかたづけられていた。

 こんなに、徹底的に片付いているのは、母さんが死んだ時以来で……

 しん、と静まり返った空気が、不吉な予感を、確信に変える。

 ……あたしは、思わず、お見舞いに持って来た花束を取り落とした。

「……ウソ……!
 岸君、死んじゃっ……」

「あ~~いたいた。
 愛莉さん、だっけ? こっちよ~~」

 あたしが、本格的に、泣きだす寸前だった。

 かなりのんびりした声が、呼んだ。

 ……誰よ!?

 出て来た涙を、ぐしっと拭いて、見れば。

 涙でゆがんだその先に。

 ピンクのひらひらレースが山ほどついた服を着た、等身大のお人形さんが、あたしに、手を振ってた。

 え……っと、東屋さん!?

 戸惑っているあたしに、東屋さんは、ご機嫌な顔して、笑った。

「疾風がねっ!
 とっても、調子良くて、今さっき、一般病室に変わったの。
 面会に来たんでしょ?
 お部屋もきれいに、飾ったし、わたしたち、そろそろ帰るから、どうぞ」