俺は医者じゃなく、ただの気楽な教師なんだから、と肩をすくめる直斗に。

 天竜さんは口の端だけで、笑う。
 
「君が陽のあたる場所で、お仕事をしている限り。
 今後、僕と会うことは、ないでしょうよ」

 そう言って、天竜さんは、今度は兄貴の方を見た。

「僕の方は、主要拠点に近い、事務所を一つ失い。
 君は、直接の配下の半分が、当分、再起不能です。
 因縁は更に山積しているようですが。
 僕の方は、今、この瞬間までの過去は。
 疾風を救ってくれた恩以外、全て忘れることにします。
 ……十億に免じて」

「なんだ、金を返す気はないのか?」

 別に、大した執着もなく聞いた兄貴に、天竜さんは、鼻で笑った。

「言ったでしょう?
 僕らは『竜』でも霞を食べて生きているわけじゃないって。
 ま、そのほとんどが、疾風の傷と、病気の治療代に消えるでしょうが」

 言ってナイフを取りだすと、自分の長い髪を、根元からざくっと切って、ぽい、と投げ捨てた。

「いらないでしょうが、領収書代わりです。
 同じ場所で同じ仕事をしている以上、永遠に、とは言えませんが。
 当分、狼と水野小路の前からも、僕たちは、消えます」