「お兄ちゃん!」
その出来事に驚いた。
天竜さんに捕まったまま。
穴を覗き込むと、どうやら、落ちた兄貴は、無事らしい。
穴の底から、あたしを見上げてる。
だけども。
あたしは、ほっと、ため息をつく間もなく。
天竜さんは、あたしをひざまづかせると、胸ぐらをぐい、と引っ張り、ナイフを突きつけた。
「…………!」
も一度、間近で見る銀色の凶器に、身がすくむ。
声もなく青ざめたあたしに笑いかけ、天竜さんは、穴の下にいる兄貴に叫んだ。
「俊介!
君のことが、うらやましかったよ!!
家族も……帰る場所も!
権力も……金も!!
何の苦労もせずに全てを持っている君がね!
だけども、この僕が、全部奪ってやる!!」
言って、天竜さんは、ナイフを両手で構えた。
「……まずは、この女からだ!!」
「やめろ!! 天竜!!」
思いきり手を伸ばしても、縁まで届かない深さに歯噛みして、兄貴が叫ぶ。
「この女を刺し、捨てるのを合図に、穴の縁を崩して、落ちた犬共を生き埋めにしてやる!
誠! 爆破スイッチ用意!」
「本気ですか……っ!?
天竜さんっ!?」



