俺様先生と秘密の授業【完全版】

 兄貴の怒りが具体化した、拳は。

 握られる寸前に、止められる。

「……愛莉さんは、どうなっても、良いんですか……?」

「……!」

 言って、天竜さんは、自分もナイフを取り出すと、鞘(さや)を払ってあたしに突き付けた……だけじゃなく。

 ぷち、と。

 あたしの制服の胸元を飾る、リボンタイを切って捨てた。

「すみませんが、僕も、結構本気なんですよ?
 お金をいただいた以上、愛莉さんは、もちろん返すつもりです。
 でも、君にヤル気が無いなら、愛莉さんは、ばらばらになった揚句。
 宅配便の段ボールで、水野小路家にお送りすることになりますが?」

 死を……

 兄貴の出方によっては、あたしが死んじゃうことをほのめかして、天竜さんは、淡々と言葉を綴る。

 天竜さんが、兄貴に要求していることは。

 何時だって、自信に満ち、誇り高く。

 大勢のヒトの上に立って指揮をとる兄貴にとって、とても我慢のできないコトのはずだった。

 もし、あたしが、物語のヒロイン役だったら、ここで『あたしのことは、見捨てて戦って』っていう場面だった。

 だけども……だけども、実際は。

 怖くて…怖くて。

 銀色に光る、ナイフを見つめたたまま。

 声一つたてることも出来なかった。