実は。

 あたし、こんな切羽詰まった状況は、初めてだった。

 水野小路に来てから、ある程度経っているのに、今まで、何も起きず……ただ。

 クラスメートと上手く行くかどうか、とか。

 テストがど~~とか。

 ごくフツーなことしか、身の回りでは、おこらなかったから。

 吉住さんの淡々とした報告を、まるで。

 映画を見てるような気持ちで聞いていた。

 そんな、不安になったあたしを見かねたらしい。

 直斗は、そっとあたしを抱きよせた。

「岸が裏切りましたね」

 冷静に言う吉住さんに、あたしは否定した。

「まさか」

「でも、岸が言わない限り、愛莉さんがバレる要素が無いとしたら?」

「でも!」

 さっき、あたしにキスしようとしてたくらいなのに……

 信じられない。

「気がつくのがもう少し早ければ、絶対学校から逃走した方が、良いですが。
 今からでは、駐車場で、鉢合わせです。
 応援が来るまで十五分、頑張りましょう」

 信じられない!

「……ウソ……本当に(天竜組が)来るの?」

「はい」

 てきぱきという吉住さんにあたしはため息をついた。

「具体的に、どう頑張れば、良いワケ?」

 何が起きたかさっぱり判らないあたしに、吉住さんは、真面目な顔をして、頷いた。